理事長ごあいさつ 山口 建

   高松宮妃殿下は、昭和8(1933)年の母君の死を契機に個人的にがん研究支援を始められました。その後、活動の場は、女子学習院の同級生組織「なでしこ会」に広がり、その流れが学界、官界、財界を動かし、昭和43(1968)年、財団法人「高松宮妃癌研究基金」が設立されました。日本政府も基金の活動を参考に、がん対策の充実を図っています。こうした他に例を見ない基金の歴史は、日本におけるボランティア活動に大きな影響を与えてきました。
 基金は、皇族のお名前を冠した財団法人として、皇族の方々から強力なご支援をいただいています。名誉総裁であられた妃殿下とともに寬仁親王殿下が総裁に就任され、自らもがんのために声を失いながら研究者を叱咤激励なされました。現在は、がん研究者としてのご造詣が深い常陸宮殿下を総裁として奉戴申し上げています。
 基金設立以降、令和5年度(2023年度)までに、あわせて51回開催された国際シンポジウムは、基金の主要な事業の一つです。これまで累計で海外977名、国内572名の研究者を招聘し、その歴史とレベルの高さから、海外のがん研究者によって高く評価されています。また、設立以降、がん研究者を対象とした学術賞を145名に、研究助成金を867名に贈呈し、我が国のがん研究の発展に大きく貢献してきました。こうした基金の活動は、理事会、評議員会、学術委員会によって支えられ、事務局を旧高松宮邸に隣接したマンションの1室に置き、数名の職員が勤務しています。基金の運営には、多くの善意ある方々からの寄附が当てられ、令和6年度の年間予算は約2億6千万円となっています。
 妃殿下が、「がん撲滅」を心に秘めてすでに90年が過ぎました。この間、がんはゲノム・遺伝子の異常によって生じるという本態解明が進み、診断、治療技術も格段の進歩を遂げました。がんの治癒率も、不治の病とされていた時代を経て、今では6割以上にまで向上しています。
 基金は、その活動を通じ、我が国のがん研究の更なる発展に尽力してまいりますので、皆様のなお一層のお力添えをよろしくお願い申し上げます。